【消えた国、消えなかった想い】
― 書と肖像が語る、溥傑と“學兄”の物語 ―

― 愛新覚羅・溥傑が贈った一枚の書と肖像、その想いと時代を未来へ ―

昭和初期、激動のアジアにあって一つの“国”が誕生しました。
それが「満州国」です。
清朝最後の皇帝・愛新覚羅溥儀が再び「皇帝」となった国――
その儚さと矛盾を抱えた国に、静かに寄り添っていた人物がいました。

それが、今回ご紹介する書と写真の送り主、愛新覚羅 溥傑(ふけつ)。
溥儀の弟です。

溥傑が贈った、親愛なる“学友”への書と写真

ご依頼主であるK様からお預かりしたのは、
4点の書作品。

そしてセピア色の軍装姿の写真と、それに添えられた「贈呈のことば」
それらには、贈呈者として「愛新覚羅 溥傑」の名が記されていました。

photocover1額装前の状態:「当時のまま残された台紙と、筆による贈呈文」

「乙亥仲秋持 贈 小島學兄 紀念 溥傑」

その筆跡からは、穏やかで誠実な人柄が滲み出ているようでした。
なぜこの書がK様のご先祖様に贈られたのかは、いまでは定かではありません。
しかし「學兄(がくけい)」という文字から、軍学校での同期や親しい間柄であったことがうかがえます。満州国建国の少し前――日本と中国の狭間で、未来に希望を持ち、共に学び合った若き日の交友。その記憶の証が、いま現代に静かに遺されています。

お客様が感じた“運命”

お客様のK様は、この作品について次のように語ってくださいました。

「今春、物置きの片付けをしていた中で見つけた写真や色紙でした。
たまたま戦後80年と重なり、さらに墓所の改修工事の時期とも重なって…。
何か運命のようなものを感じ、雪山堂さんに額装をお願いしました。
歴史的背景まで丁寧に調べていただき、心が温まりました。
何より先祖への供養になると思います。本当にありがとうございました。」

私たちにとっても、この言葉は深く胸に残りました。
それは単なる修復や額装のご依頼ではなく、「時代」と「家族の想い」とが重なり合った、かけがえのない瞬間を託されたということだからです。

終戦後80年の今だからこそ、この平和の尊さとそれが続いていることへの感謝の念を抱かざるおえません。
この額装が、ご家族の中でこれからも長く大切に守られ、時を超えて想いを語り続ける存在となりますように。


溥傑という人物

溥傑は、清朝の王族でありながら日本の陸軍士官学校に留学し、日本語にも堪能だった人物です。
兄・溥儀が「満州国皇帝」となったことで、自身もその“弟宮”として政務に関わるようになりました。

しかし、その立場は決して華やかなものではありませんでした。
兄と違い、政治の中枢には関わらず、常に一歩引いた場所で「誠実に、静かに生きる道」を選んだように思われます。

彼はのちに、日本人女性・嵯峨浩(さが ひろ)と結婚。
国際結婚が珍しかった時代、皇族と日本貴族との結婚は、政治的意味も帯びながら、それ以上にお互いを思いやる姿勢が印象的なご夫婦といわれたそうです。

満州国崩壊後、ソ連軍に拘束され、中国での投獄、戦後の再教育、波乱の人生を経て、晩年は北京市で静かに暮らしたと言われています。

額装によって、時代と人を未来に伝える

今回の額装では、以下のように作品を仕立てました。

  • 書作品4点は、時代の雰囲気に調和するよう古色を帯びた木目の杉フレームに。書は敢えて修復はせず、そのままの状態で。

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  • 御先祖様の軍服姿の写真は、それぞれの風合いに合わせてクラシカルな文様入りフレームを選定

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  • 贈呈の書と肖像写真のセットは、落ち着いた緑青マットに面金を付けてまとめ、品格と重厚さを演出

photocover framed書(贈呈文)と肖像の2窓額装:「“學兄”へ贈られた記念の書と軍装写真を対で」 photocover framed2静かに語りかけてくるような、時をまとった佇まいです  

傷や変色もそのままに、手を加えすぎることなく、
「時をまとったままの姿」で額装を仕上げています。

ご家族の記憶と、歴史の交差点

K様は、当初は「(こんなものでも)飾れるのでしょうか」と遠慮がちにお持ちくださいました。けれど、この一式を手に取った時、私たちのこころは高まりを覚えました。

これは、間違いなく“歴史”からこぼれ落ちた “ご家族の宝物”。そして“歴史の証”でもあると。

額装は、単なる装飾ではありません。それは、「誰かの想いが込められた時間」を、魅せるカタチにし、人と未来へ届ける「もの語るもの」、「語り継ぐもの」なのです。

 jitakuK様宅に飾られた「ご家族の宝」「歴史の証」の品々

同じような記憶が、あなたの家にも眠っていませんか?

今回のように、戦前・戦中の書や写真、古文書などは、繊細な扱いが必要です。
雪山堂では、そうした資料を大切に「かたち」にするための保存額装の知識と技術を備えております。

あなたのご家族に伝わる、かけがえのない“物語”。そうしたご相談がございましたら、一報をお寄せください。