大切なお軸に、もう一度“祈り”の光を
傷んだ仏画が、尊厳を取り戻した修復事例のご紹介
今回ご紹介するのは、長年大切に守られてきた「お軸」の修復です。
お預かりしたのは、 お客様S様のご家族が、お仏壇におさめ代々大切にしてこられた仏画のお軸。
しかしその姿は、時の流れとともに破損・欠損が激しくなり、繊細な線描も、ところどころ消えかかっていました。
経年劣化によってお作品の破損、欠損、折れ、ひび割れが進んでおります。
構造的な損傷が激しく、一部は原形を保っていない部分も…。
破れた箇所が浮き上がり、さらに損傷を進めている状態でした
お預かりした掛け軸は、長年の風化により折れやひび割れ、紙の剥離が多く見られ、仏画の繊細な線描もところどころ不鮮明になっていました。
全体的に脆弱になり、又欠損部分も目立ちます。取り扱いには、細心の注意が必要です。
お客様のご希望は、
「このお軸を、もう一度仏壇に掛けて手を合わせたい」
という、深い祈りと願いに満ちたものでした。
その想いに寄り添いながら、私たちは修復に取りかかりました。
修復後のお軸を収めるお仏壇
その為、掛け軸の総丈は、お仏壇に収まるよう通常より短く調整しました。
表装作業は、まずは、丁寧な洗浄を施し、表面の汚れをできうる限り除去。
欠損部分には、裏側から同系色の裏打ち紙を慎重に継ぎ足し、
自然な風合いを壊さぬよう、時間をかけて調整を重ねました。
そして裂地には、重厚感と品格を兼ね備えた「紫金襴(しこんらん)」を使用。
高貴な紫の裂が仏画全体の格を引き上げ、
仏画に宿る“祈りの力”を、より一層引き立ててくれました。
お軸が静かに、けれど確かに、ご家族の暮らしに寄り添う存在として
戻っていけるよう仕立て直しています。
修復後は、近くでよく見ない限り、欠損部分はかなり目立たなくなりました。
お軸の裏側です。欠損部分を丁寧に修復した箇所が見られます。
裏側から見ても、継ぎ足した箇所は丁寧におさめられ、
美しさと強度、そしてなにより、心が宿る「佇まい」を取り戻しました。
一幅のお軸には、目には見えない“こころ”が込められています。
それは祈りであり、想いであり、
ご家族にとって大切な「日常のなかの光」なのかもしれません。
その大切な光が、再び灯るように。
雪山堂は、技術と感謝の心で、一つひとつの修復に向き合っています。