吹き抜けの空間に映える一枚

― エルメス「カレ90」の額装 ―

「このスカーフを、家の“顔”になる場所に飾りたいんです。」
そんな一言から、今回の額装は始まりました。

お預かりしたのは、エルメスの代表作のひとつである「カレ90」《アカデミア・イピカ・ブルー》。

力強い美しさとカリスマ的なフェミニティを描いたこのカレは、あらゆる自由を象徴し、解き放たれた感情と唯一無二のしぐさ、そしてまだ見ぬ物語を紡いでいます。

一枚の中に物語と動き、そして遊び心が凝縮された、まるで一幅の絵画のような存在感を持つスカーフ。
それを「飾る」ためには、単に収めるのではなく、どう映えるかを丁寧に考える必要がありました。

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額縁とマットの設計

― 主役を引き立てるための“静かな構成” ―

額縁には、シンプルな中にも品格を感じさせるデザインを選び、
内側にはアンティークなゴールドの唐草模様のフィレ(額縁側の細い装飾縁)を入れています。

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この細いラインがあることで、
・スカーフと額縁の間に程よい緊張感が生まれる
・作品が「空間の中で締まって見える」
そんな効果を狙いました。

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マットは、あえてホワイト系です。
一見すると控えめですが、実はここに大切な仕掛けがあります。

 

実は“あの色”を拾っています

― マット内側の黄色の意味 ―

マットの内側に入れた細い黄色のライン
これは、装飾ではありません。

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この色は、スカーフ外周に使われている裂地色そのもの
作品の中から一色を丁寧に拾い上げ、額装全体の中にそっと添えました。

主張しすぎず、でも確かに全体をまとめる。
こうした「気づく人には気づく」設計が、長く飽きずに眺められる額装につながります。

 

裏打ちをやめた理由

― 布だからこそ、最後は“手”で決める ―
※ 仕上がりを優先し、あえて裏打ちをやめる判断をしました。 

今回、実は最初に裏打ちを施しました。
しかし作業を進める中で、

・わずかな“よれ”が出る
・線が真っすぐに見えない箇所がある

という問題が生じました。

シルクのスカーフは、非常に繊細です。
わずかな歪みでも、見る人の目にははっきりと映ります。

そこで一度、裏打ちをすべて剥がし、方針を変更しました。

 

解いて、引いて、整える

― 時間のかかる、遠回りの選択 ―

裏打ちをやめ、スカーフを解いた状態で、手作業によって引きながら調整する方法へ。

・よれが出ないように
・線が自然に、かつ真っすぐに見えるように
・布に無理な力がかからないように

一方向ずつ、少しずつ、丁重に。
時間はかかりますが、この方法でしか得られない“張り”があります。

その結果が、写真でご覧いただいている仕上がりです。

 

短納期という条件の中で

― テレビ撮影という特別な背景 ―

通常、このようなスカーフ額装は2カ月ほどは納期を頂いています。
しかし今回は、お客様の事情があり、短納期での仕上げが必要でした。

一度裏打ちを行い、そこから剥がしてやり直し、さらに手作業で引きながら整える…

正直、時間はかなりひっ迫しました。
それでも「この空間に、このスカーフが掛かる意味」を思い浮かべながら、なんとか仕上げることができました。

 

吹き抜けという“舞台”に飾られて

― 空間が完成した瞬間 ―

完成後、お客様から嬉しいお褒めのお言葉を頂きました。

高所への設置と、空間全体のバランス

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この額装品は、仕事関係の方のお力をお借りし、ご自宅の吹き抜け部分という高所に設置されたそうです。

吹き抜けは、
・視線が自然と集まり
・家全体の印象を左右する
まさに“家の象徴”ともいえる場所。

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そこにこの一枚が収まったことで、空間全体が静かに引き締まり、
同時に、遊び心と物語性が加わったように感じられます。

光と壁が、作品を引き立てる

お部屋の清楚な壁紙と柔らかな木調の柱。
そこに、アップライトと素敵なシャンデリアの柔らかな光が重なり、スカーフ全体がやさしくライトアップされています。

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左手に見えるシャンデリアは、吹き抜け空間のスケール感を損なうことなく、
光の層をつくることで壁面と額装作品を静かに引き立てています。
クリスタルの一粒一粒が放つやわらかな光と モダンでありながら温かみのあるデザインが、静かな贅沢さを空間に添えています。それはまるで空間に溶け込む光の彫刻のようです。

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建築と照明、そしてアート作品が、互いに干渉せず混然一体となり調和している点が素晴らしいです。

この照明の光が、

・細部の描写を浮かび上がらせ

・シルク特有の質感を損なうことなく

空間を演出し、それぞれが主張しすぎることなく、
互いを引き立て合っている理想的な関係だと感じました。

 

「飾って、完成する」額装

額装は、工房で仕上げた時点ではまだ“半完成”です。
実際に飾られ、光を受け、日常の中で眺められてこそ、本当の完成を迎えます。

今回、お写真を拝見し、このスカーフが空間の一部として自然に息づいていることに感動を致しました。

今回の額装は、作品そのものの魅力だけでなく、
建築・照明・空間の設えまでを含めて初めて完成した一例だと感じています。